

後藤康成氏 【夏のIT勉強会 2006 】基調講演「2006 年 Web2.0によるインターネットのイノベーションが始動する」
2006年7月に開催いたしました「GBS夏のIT勉強会2006」の基調講演内容、「インターネットのイノベーションが始まりWeb2.0時代となった 2006年、インターネットサービスプロバイダーおよびITソリューションプロバイダーに求められるエンジニアリングについて」ご紹介いたします。
ITソリューション・プロバイダーにとってのWeb2.0の捉え方
Web2.0とは何か? ひと言で言うと、今起きているwww(ワールド・ワイド・ウェブ)の変化とトレンドを指す概念です。Web2.0が生まれた背景には、Webの情報量とインフラコストの変化、そしてテクノロジーの変化があります。
Web情報量とインフラコストの変化
インターネットが世に出た90年代中頃を便宜的にWeb1.0とします。インターネットが一般の家庭に普及し始めるのはWindows95が出た後で、当時は288といわれるナローバンド接続でした。つまり、あぜ道の中を小さい情報が走っている状態です。
ところが今では一般家庭にもFTTH(FiberToTheHome)が引かれ、インターネットは電気やガスと同じように当たり前のインフラとなってきました。90年代中頃が1車線だとすると、いまやそれが200車線、300車線になっており、当然、そこでやりとりする情報量も増えています。
一方、インフラコストは大きく下がっています。梅田望夫さんはこれを「チープ革命」と呼んでいます。時間課金制から定額制に変わり、さらにそこを走る情報量は多くなっているので、おのずと1バイト当たりのコストは相反して低くなっています。このようにインターネットそのものが完全にインフラになっているという環境の変化を、Web1.0、Web2.0と呼んでいます。
テクノロジーの変化
テクノロジー面でも大きな変化があります。Web1.0はhtml+ハイパーリンクで、htmlという言葉で表現するとブラウザーで文字が見える、ハイパーリンクを貼ると違うページにリンクできるというのが基本的なスタイルでした。
これがWeb2.0になると、XML+Webサービスが出てきます。htmlはブラウザーの視覚表現を定義する言葉ですが、XMLは通信する際に必要な情報を定義する言葉です。データソースやアプリケーションはインターネット側にあり、1.0と同じようにhttp上で通信していますが、ブラウザーに対して通信されるものがhtmlであったりXMLであったりと変わってきています。
もう一つ大きな変化として、これまではブラウザーとサービス間のみの通信だったものが、インターネットのサービス同士で情報通信をするようになりました。これはMash Upといわれるかたちで、これも一つのテクノロジー面の環境変化です。
大前提はプラットフォームとしてのWeb
Web1.0以前は、コンピューターのプラットフォームはOSでした。Windows95に代表されるOS上にアプリケーション・プログラムが載り、そこにデータがあるという縦割りの構造です。
ところがWebが入ってきてから、プラットフォームはWebブラウザーになりました。1997年にはネットスケープナビゲーターが登場し、それをマイクロソフトが追うかたちでWebブラウザーが普及していきました。Webブラウザーをインストールすると、OSを問わずインターネットに接続できて、同じ環境でインターネットのサービスが受けられます。これがWeb1.0時代のプラットフォームです。
Web2.0になると、Web そのものがプラットフォームになります。インターネット上にデータソースがあり、アプリケーション・プログラムも動きます。これによって、ネットワークを通じて他人と情報を共有することができ、また、どこにいてもインターネットにアクセスしてアプリケーションのサービスを受けることができるのです。
Radical Trust and CGMとリッチユーザー体験
Web2.0を大きく牽引する力として、Radical Trust and CGM(Consumer Generated Media)とリッチユーザー体験というキーワードがあります。
Radical Trust and CGM
これはユーザーを信頼してコンテンツをつくってもらうという仕組みです。具体的にはWikipedia、amazon、e-bay、Slashdot、mixiなどが挙げられます。
たとえばWikipediaはインターネットの百科事典で、ワールドワイドで200言語以上に展開されており、記事数は310万件、日本語だけでも2006 年3月時点で17万件のキーワードがあります。じつは、これらはすべて利用者が編集・監修しています。ある用語を追加すると、関係ある記事を他のユーザーが加筆したり、事実と違っているときには変更したり、新しい内容が出てきたらユーザーがアップデートするのです。専門家が監修するのではなく、ユーザー自身が百科事典をつくるという新しいかたちです。
amazonのカスタマー・レビューは、ユーザーによる感想文です。「この本面白いよ」「あの映画はよかった」といった個人レベルの口コミが、Webの中で実現されています。同じように@cosme(アットコスメ)という化粧品サイトでは、化粧品を実際に試した感想が口コミの巨大データベースになっています。こうした情報をインターネットで共有することによって、自分の肌質と同じような女性は何を使っているかといったことが、一目瞭然でわかるわけです。
リッチユーザー体験
デスクトップOSは、すでにかなり高度なインタラクティブ・ユーザー・インターフェースを実現しています。ところがこれまでのWebブラウザーは、ハイパーリンクをクリックする、あるいはダイアログが出てそこに何かを書き込むといった程度でした。それが、よりデスクトップOSに近い高度なダイアログが出てきて、Googleカレンダーのように画面が遷移しないインターフェースが実現されています。サーチエンジンも、チェックボックスをチェックするとページを遷移せずに検索結果がダイナミックに変わり、まさにデスクトップ上のOSで操作しているように使えるようになってきています。
今、我々が提供しているフィードパスやジンブラも、リッチユーザー・インターフェースで実現されています。これは、クライアント・コンピューターのCPUが非常に高性能になってきて、ブラウザー上でより高度なインターフェースが実現可能になったということです。
Web2.0的なデータ構造とサーバーサイド・アプリケーション
Web2.0を支えるサービスや仕組みについて、いくつかのキーワードを挙げてみました。
SNS(ソーシャル・ネットワーク・サイト)
SNSは、人と人とを組織する自己主張のプラットフォームです。人がベースになって、そこに情報が付随しているという仕組みです。たとえば私がいると、私のプロフィールや日記がそこにぶら下がってきて、そこから人と人のネットワークが広がっていくのがSNSの特徴です。キーワードはあくまで「人」であり、情報ではありません。
ブログ(blog)
ブログの場合は、情報を組織します。情報に付随して人が関連しているかたちで、SNSとはまったく逆になります。私がブログを書くと、情報がハイパーリンクやトラックバックでシンジケートして、どんどん情報が集約されてきます。情報のセグメントができて、一つの情報がいろいろなところとリンクしてくるわけです。
フィード(XMLフィード)
フィードは、情報と情報を組織するものです。「情報が構造化される」ととらえればいいでしょう。たとえばブログにはRSSフィードというものがあり、ブログのメタ情報をフィードリーダーで購読することができます。自分の好きなブログをピックアップしておけば、メールマガジン感覚で、ブラウザー上で最新の情報を見ることができるのです。本当の情報はブログに書かれているのですが、メタ情報はフィードの中に埋め込まれているわけです。RSSフィードは、すでに e-コマースやyahooオークションなどさまざまなアプリケーションで使われています。
Mash Up
Mash Upは、個別サービスの情報を統合するものです。たとえばFIND JOBという求人サイトは求人情報を持っており、Googleマップは地図情報を持っています。この二つがミックスされ、FIND JOBマップというものがFIND JOBの中でサービス提供されています。求人情報の住所情報がGoogleマップにマッピングされ、求職者は希望の会社がどこにあるのか一目瞭然でわかる仕組みです。これはGoogle 側が地図情報のAPIを公開していることで、FIND JOBのエンジニアがGoogleの地図情報と自分たちの求人サイトの会社住所をマッピングさせるといったテクノロジーで実現されています。
Web2.0 時代のエンジニアリング・スタイル
Web2.0時代になって、エンジニアリング・スタイルはどう変わっていくか。我々の会社の最新のWebの開発スタイルを簡単にご紹介します。
情報伝達、情報共有
まず、ミーティングは基本的にブログにエントリーします。とくに紙に書いたり、ワードでレポートすることはありません。また要件定義というフェーズでは、ビジネス要件もシステム要件も最小限にまとめ、更新されたらそのつどアップデートします。議論はメーリングリストで行ない、そのアーカイブを常にとっておいて、途中から参加したメンバーもこれまでの議論の経緯がわかるようにします。
アップデートするドキュメントは、データベースのテーブル構成図とサイトマップといわれる画面の遷移だけで、それ以外はドキュメントを持ちません。外部仕様書は直接htmlで書き、実際の開発に即利用できるスタイルをとっています。エンジニアにとっては、そのソースコードが仕様書です。バグレポートに関しては、バグ・トラッキング・システムで集中管理して、できるだけ低コストで簡単に、かつ集中管理できるような仕組みになっています。
開発スタイル
エンジニアリングのスタイルには、プロダクトアウトとマーケットインがあります。プロダクトアウトとは、サービス提供者の視点でものをつくってユーザーに提供するスタイルです。マーケットインは顧客の視点でお客様の仕様にあわせてつくるというものです。インターネット・サービスは新たな市場に展開することが多いので、その両方のハイブリッドで、サービス提供者側の視点を元につくって、利用者に使っていただき、そのフィードバックを元に改善をしていくといったアプローチをとっています。
新しいサービスを展開するには、ビジネス・プロデューサーとエンジニアが完全にタッグを組んでやっていかなければいけません。エンジニアにはミッションとして「エンジニアはソフトウェアを開発するな、ビジネスを開発しろ」と言っています。
一方、ビジネス・プロデューサーは、インターネットで新しいビジネスをつくるという認識で自身も開発に加わります。ビジネス・プロデューサーが仕様の決定からテストに至るまでコミットすることで、より早くビジネスをスタートアップさせることができます。
アジャイル開発の考え方
2000年くらいから流行りだした開発プロセスのアプローチとして、アジャイル開発があります。我々も断続的にネットサービスを開発するので、その中でアジャイル開発のプロセスを取り入れていくことを心がけています。
具体的には、以下のようなことを意識として徹底しています。
- ユーザーを満足させるためのサービスをつくる。
- 継続的に価値あるサービスをリリースする。
- リリース直前においても、ビジネスにインパクトをもたらす大きな仕様変更があれば、エンジニアはそれを受け入れる姿勢をもつ。
- 長い期間を使ってリリースするのではなく、小出しに開発してサイトをブラッシュアップしていく。
- ビジネス・プロデューサーとエンジニアは同じフロア、できれば隣の席で働く。
- やる気のあるチーム・メンバーで編成し、必要なものは与えてアウトプットをきちんと出してもらう。
- 進捗の管理は工程管理図ではなく、動作するソフトウェアで確認する。
- 一番のコミュニケーション手段はフェース・トゥ・フェース。
技術については、エンジニアが自ら新技術をどんどん吸収していくことで、よりアジャイル性を高めることができると思います。
Web2.0は今後どうなっていくのか
今はコンシューマーをベースに、Web2.0というキーワードが出ていますが、我々は今後、エンタープライズにこれを展開していこうとしています。 90年代半ばにインターネットが登場したときも、はじめにコンシューマーでブレイクし、その後、企業がコーポレートサイトの魅力に気づきました。同じようにWeb2.0の概念やテクノロジーは、これからエンタープライズに浸透していくと考えており、我々はこれを「イントラネット2.0」と言っています。
オフィスの中でのコミュニケーション手段はいくつかあります。一番レガシーなものが電子メールで、これはビジネスマンのライフラインともいえる重要なコミュニケーション手段になっています。一方、インスタントメッセンジャーを使って違うフロアの人と話したり、スカイプで海外とコミュニケーションしている人もいます。
我々はその中で、n対nの情報をどのようなかたちでコミュニケーションしようかと注目しています。フィードリーダーを中心に、インターネットでの情報収集やイントラブログ、SNSグループウェアといったフィードを配信するソフトウェアから情報を吸い上げて、個人ポータルという側面でフィードリーダーを使っていこうと考えています。
エンタープライズ・ポータルでは、グループウェアのスケジューラー、ワークフロー、施設予約、あるいはフィードリーダー、ブログへの投稿、メールクライアントなどがゆるやかに統合されるかたちになるでしょう。当然サーバーサイドには、イントラブログやグループウェアのサーバーがあります。基本的にはhttp ベースになるとインテグレーション・コストが圧倒的に下がります。
この中でも我々はとくにイントラブログに力を入れており、さらにフィードリーダーも市場に投入しようとしています。また、ジンブラというメールソフトウェアはMash Upを利用していて、たとえばメールメッセージの中に「明日の10時」というキーワードがあるとき、そこにオンマウスするとその日時の予定を自動的にスケジューラーに確認してポップアップしたり、住所をクリックするとそのまま地図が出てくるといったかたちになります。
こうしたWeb2.0のテクノロジーや傾向を企業の中でどんどん活用していけば、仕事がより楽になり、誰もがハッピーになるのではないでしょうか。私はこれが今後、Web2.0の向かうべき一つの方向だと思います。
後藤 康成(ごとう やすなり)氏
株式会社ネットエイジ |
大手電機メーカー系エンジニアリング株式会社、中堅エンジニアリング会社を経て、1997年からシリコンバレー・ベンチャーにて北米及び、欧州担当システム開発マネージャーとして欧米キャリアに提供後、2000年日本を代表するネットビジネスインキュベーターのネットエイジに入社し、多くのネットビジネス育成に携わる。 2005年Web2.0カンパニーのフィードパス株式会社の設立に参画し、取締役CTOに就任、現在に至る。 講演多数。著書に『ビジネスブログブック 2, 3』(毎日コミュニケーションズ)、『Web 2.0BOOK』(インプレス)などがある。 株式会社ネットエイジフィードパス株式会社ブログ blogot |





















